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ついにアルバカーキ・サーガ完結!さようなら、ソウル・グッドマン

今週のベター・コール・ソウル

ついに最終話
ついに最終話。「ベター・コール・ソウル」シーズン1より Netflixシリーズ「ベター・コール・ソウル」シーズン1~6独占配信中

 ついにアルバカーキ・サーガ(「ブレイキング・バッド」『エルカミーノ: ブレイキング・バッド THE MOVIE』「ベター・コール・ソウル」と展開してきた)が完結を迎えた第13話「さらばソウル(Saul Gone)」。最終話がどうなるのかもまた、これまでと同じように予測がつきにくい部分もあったが、終わってみれば、これ以上ない完璧な幕切れだった。紛れもない現代のマスターピースの誕生をもってして、“ピークTV時代”が一つの区切りを迎えた感がある。(文・今祥枝)

※ご注意 この記事は「ベター・コール・ソウル」シーズン6についてのネタバレが含まれる内容となります。視聴後にお読みいただくことをおすすめします。

今週のベター・コール・ソウル~シーズン6第13話(最終話)

 タイトルバックでおなじみのソウル・グッドマンのCMを収めたVHSビデオの映像は、すっかり擦り切れてしまった。本編は前回からの続きで、回想シーン以外はモノクロームの映像で描かれる。ジーン(ボブ・オデンカーク)は警察の手から逃れようとするが、ゴミ箱に隠れていたところを、あえなく逮捕となる。留置所で、「こうやって捕まるのか、こうして捕まるのか、まったくお前は何考えてたんだ」と怒りをあらわにして扉に拳をぶつけるも、痛くてしゃがみ込むジーン。やけくそ気味に笑うくだりは、すっかり壊れてしまったように見える。

 しかし、最初に電話をしたのが店長をしていたシナモンロール屋シナボンでシフトの心配をするジーンの姿には、どこかホッとするものも。かと思えば、元検事捕の弁護士ビル・オークリー(ピーター・ディセス)に電話して、ソウル・グッドマンの補助弁護人を引き受けさせるために説得する口調は、いかにもソウルらしさが感じられる。第10話「迷子犬」あたりから、筆者は主語を誰として書くのかに迷うことが多かったが、潜伏中のジーンの中にソウルが現れ、今やすっかりソウルの独壇場のようになりつつある

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ジミー/ソウル
ジミー/ソウルの渾身の立ち居振る舞いに注目!「ベター・コール・ソウル」シーズン3より Netflixシリーズ「ベター・コール・ソウル」シーズン1~6独占配信中

 この調子でソウルとして終わるのか、それとも本来のジミーは戻ってくるのかといった、どっちに転ぶのかのせめぎ合いは、終盤まで、実に絶妙なバランスで微妙な揺れが描かれた。脚本の素晴らしさは、このシリーズにおいては毎度のことだが、今回も完璧すぎる仕上がり。演じるオデンカークの表情の微細な変化、その巧みな役作りにもはや至芸である。

 ソウルとして検察を相手に駆け引きを繰り広げるくだりは、これまでにこのシリーズが何度も描いてきたことだが「人は変わらない、変われない」と思わせる。RICO法違反行為、薬物の製造販売の共謀、資金洗浄、二人の連邦捜査官の死を含む複数の殺人の事後共犯、これらを合わせた罪状は終身刑+懲役190年。これをソウルは持ち前の弁護テクニックでなんと7年半に収め、過ごしやすい収容施設まで指定し、ブルーベルのチョコミントアイスの差し入れさえを要求する。してやったりという感じだが、亡きハンク・シュレイダー(ディーン・ノリス)DEA捜査官の妻マリー(ベッツィ・ブラント)をわざわざ検察との交渉の場に呼び、「あなたも彼も被害者です。わたしもそう」と一説ぶつあたりは眉をひそめたくなる。「仕事も家族も自由も失った。誰もいないし何も持っていない」と自分を嘆いて見せるあたり、第10話で似たようなことをモールの警備員の前で言いながら、ふとジミーの本音が顔をのぞかせた時とは大きく異なる

 しかし、ソウルは飛行機で移送される際に、キム(レイ・シーホーン)が宣誓供述書を敵対していた亡き弁護士ハワード・ハムリン(パトリック・ファビアン)の妻シェリル(サンドリーヌ・ホルト)に渡し、自ら民事訴訟の道を与え、シェリルが訴訟を起こせば永遠にキムから全てを奪えてしまうことを知り、ソウルの中で何かが変わったようだ(このあたりのオデンカークの表情の変化も秀逸)。ハワードの件でまだ隠しているネタがあるから検察と取引したいとオークリーに突如言い始めるが、オークリーはその情報を与えたら、民事訴訟に直面しているキムに大打撃を与えるかもと警告し「これ以上何を得たいのか?」と問うが、ソウルは「あの(ブルーベルのチョコミント)アイスは最高なんだよ」と笑う。ここからのソウルの言動は、実はキムを法廷に来させるためのものだった。当のキムは、中央フロリダ法律相談所でボランティアを始めて、ようやく人生を前に進めようとしていた矢先だった。

キムとジミー
かつてのキムとジミーの関係も思い出される。「ベター・コール・ソウル」シーズン1より Netflixシリーズ「ベター・コール・ソウル」シーズン1~6独占配信中

 裁判当日のラストの20分弱は、文字通りピークTV時代の、あるいはこの時代の全ての映像作品においても記憶に残る名シーンであり、本作をマスターピースたらしめるラストとして完璧な仕上がりだ。ありし日のソウル・グッドマンとして法廷に入ると、そこにはキムの姿が。ここで視線を交わす2人の表情もまた、言葉はなくともなんと多くを物語っていることか。そして「さあ、ショータイムだ」というソウルが、どんな弁舌を披露するのかと思いきや、それは罪の告白だった。ここまで周到にバランスを取りながら描いてきたが、ついに法の目をかいくぐるソウルの狡猾さより、ジミーの良心が勝った瞬間だろう。

 ソウル/ジミーは、ウォルター(ブライアン・クランストン)との関係について前言撤回し、「金儲けの機会を得て、それから16か月間、ウォルターの麻薬帝国を築くために働いた。何が起きているか知っていた、何百万ドルも共謀して稼いだ」と言って法廷もわれわれ視聴者もあっと驚かせる。そして、「ウォルターはわたしなしでは帝国を築けなかった」と言う。「ブレイキング・バッド」をソウルの視点から見直すと、また別の物語に感じられることだろう。再びキムと視線を交わすソウル/ジミー。「キムはやり直す勇気があった、逃げたのはわたしの方です」と言って、ここでついに兄チャック(マイケル・マッキーン)の話をするのだった。

 「(チャックは)優れた弁護士で、誰よりも賢かったが頑固だった。(自分は)努力したがもっと頑張るべきだった。代わりに兄を痛めつける道を選び、弁護士賠償保険を解除させた。兄から唯一の生きがいの法を奪った。その後自殺した。罪と向き合い、一生背負っていきていく」と語り終えたソウル/ジミー。最後は愛するキムに対する誠実さを、そしてソウルの起源とも言える兄チャックの件について、それが法で裁かれる罪か罪でないかは関係なく、ジミーは自分の罪を受け入れ、自分に対して誠実である道を選択した。

キムとジミー
キムとジミーは良いパートナーだった。「ベター・コール・ソウル」シーズン2より Netflixシリーズ「ベター・コール・ソウル」シーズン1~6独占配信中

 “グッドマンさん”と判事に呼びかけられて、「ジェームズ・マッギルです」と答えるジミー。そしてまたキムを見る。チャックの名前が出た時点で涙腺崩壊という感じだが、ジミーとキムのアイコンタクトだけで伝わる言葉では形容し難い深いつながりに、またも泣けてしまう。

 今回のアバンタイトルと検察との駆け引きをうまくやった後、そして裁判の後。それぞれにカラーパートの回想シーンが描かれた。冒頭は、マイク(ジョナサン・バンクス)と一緒にラロの保釈金700万ドルを砂漠で運んでいた時のこと。金を山分けして逃げようという話から、ソウルは「まず600万ドルでタイムマシンを作る」と言い、タイムマシンでどこに行くか聞く。マイクは息子が殺されたと推測される日を最初にあげるが、「1984年3月17日、初めて賄賂を受け取った日」と言い直す。自分が過ちを犯した日だ。一方、ソウルは金儲けの話をする。マイクは「すべては金か? 変えたい過去はないのか」という。

 次にウォルターと2人で地下にいたシーン。ここでもソウルは「タイムマシンがあったとしたら? 科学者として過去と未来でどっちへ行く?」と聞く。ウォルターは「時間旅行など科学的に不可能だ」と言い、「現実的にも理論的に不可能なタイムマシンの話をしているのではない、後悔だ、後悔を知りたいんだろ」と話を続ける。ウォルターは自分の悔いを、大学院生だった時に会社を始めたが、友人と思っていた人たちに巧妙に発見したものを手放すように仕向けられ、会社を去ったことだったという。だが、その直前に見ていたのはジェシー(アーロン・ポール)からもらった腕時計だった。一方、ソウルの詐欺をした昔話を聞いたウォルターは「つまり、君は昔から変わらないんだな」と嫌悪感をにじませていう。

チャックとジミー
兄チャックのことが、最大の後悔だったのだろう。「ベター・コール・ソウル」シーズン1より Netflixシリーズ「ベター・コール・ソウル」シーズン1~6独占配信中

 ラストは、チャックに生活必需品を調達するジミー。このシーンは説明するだけでも辛いと思ってしまうのだが、「向かっている方向が違うと思うなら後戻りしてもいいんだぞ」と言われて反論するジミー。決して相容れない兄チャックのことが、やはり最大の後悔なのだ。このシーンでチャックが読んでいたのが、H・G・ウェルズの「タイム・マシン」。シーズン6第1話のアバンタイトルで、ソウルの悪趣味な豪邸から警察が家財を押収するシーンで「タイム・マシン」がしっかりと映っていたことに思い至るのだった。微に入り細にうがって作り込まれた映像世界であることに、もはや感嘆するしかない。

 「ベター・コール・ソウル」はソウル・グッドマンがいかにして生まれたのかを描き、逃亡者として別人のジーンとなっても、逃れることのできなかったソウルというペルソナを、手放すまでの物語を描いた。それはジミー・マッギルという一人の人間が、後悔と贖罪に向き合うまでの長く過酷な魂の旅路でもあった。法廷にソウル・グッドマンとして入り、ジミー・マッギルとして出ていく。その先にある未来はどんなものなのかはわからない。本作はモノクロームの映像のまま幕を閉じるが、少なくともジミーはついに自分に嘘をつくことをやめ、魂を取り戻すことができたのだと信じられる。

 そしてキムだ。刑務所を訪れたキムは、ジミーのタバコにライターで火をつけようとする。その手を、そっと包み込むようにしておさえるときに触れ合う2人の刹那に、さまざまな感情が去来して涙に暮れる。この時のライターとタバコの火だけが、モノクロームの世界にふっと明かりがともったように色づいていることにも、希望を感じさせるものがある。

ジミーとキム
二人の心中を考えると切ない。「ベター・コール・ソウル」シーズン3より Netflixシリーズ「ベター・コール・ソウル」シーズン1~6独占配信中

 クリエイター陣のインタビューによれば、ラストは複数のパターンがあったそうだが、この2人が一緒のシーンではなく、塀の中にいるジミーと刑務所を出ていくキムという、はっきりと距離のある2人の姿を引きの画で映し出すシーンで締めくくられた。これについても作り手による解釈がインタビューなどで知ることができるが、ジミーとキムの現在の関係を、その胸の内を、またはこの先の物語があると想像する余地が残されていることこそ、視聴者にとって最高の贈り物だと思う。

Netflixシリーズ「ベター・コール・ソウル」シーズン1~6独占配信中

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